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カット野菜の衛生管理と技術開発 -予測微生物描画プログラムの提供-

近畿大学 生物理工学部 食品安全工学科 教授 泉秀実

取り組み紹介2022-09-13

加工食品の安全性確保のための衛生指標開発のなかで生み出された「予測微生物描画プログラム」で、カット野菜の消費期限が経験に基づく設定から科学的に検証された設定へと大きく変わります。近畿大学 泉秀実先生にお話をお聞きしました。

流通・貯蔵時の安全性を高める衛生指標

カット野菜はメーカー(製造者)によって厳しい品質管理のもと、加工、洗浄・殺菌、計量・包装と工程を進め、出荷されています。消費期限はこれまでの経験から、一般的に加工日からおおむね3日後と設定されています。
カット野菜の消費期限に影響を与えるのは、フィルム包装する時点での菌の数である初発菌数、包装の中での微生物増殖、そして流通・貯蔵時の温度です。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期 スマートバイオ産業・農業基盤技術で研究されている「青果物を原料とする加工食品の安全性確保のための衛生指標の開発」では、初発菌数を低減する殺菌技術、フィルム包装の中の微生物の増殖を抑制するためのMAP技術(包装内の気体を食品の保存に適するよう調整されたガス組成に置き換える)について、効果をもたらす提示を行ってきました。
そして、流通・貯蔵時の温度として、10℃、5℃、1℃それぞれでの菌数増殖の時間経過による変化を調査し、その結果を基にグラフで予測表示できる仕組みとして予測微生物描画プログラムを開発しました。(流通・貯蔵時の温度は、日本は10℃、ヨーロッパは5℃、米国は1℃が一般的)

食品流通の効率化、フードロス削減にも寄与するプログラム

ukabis上に実装されるカット野菜の「予測微生物描画プログラム」は、菌の増殖抑制のための殺菌が行われた後の初発菌数と、MAP技術により包装が安定した状態で流通する時の温度である貯蔵温度を入力すると「カット野菜の微生物予測曲線」として出力され、日数経過で菌数増加の予測を表示します。

予測微生物描画プログラムの予測確率の精度をあげるためには、野菜ごとの個別モデルフィッティング曲線が必要なことから、キャベツやレタスから順次種類が広げられ、実験が繰り返され、準備が進められています。

予測微生物描画プログラムはカット野菜のメーカーが消費期限の確認をグラフに可視化して予測できる仕組みとして活用でき、従来、経験によって決まっていた消費期限の設定を製品の状態に即した形に変え、食品の安全を確認する場合の指標の1つとして活用できるようになるでしょう。
また、カット野菜に関わる多くの企業で予測微生物描画プログラムが活用できるようになると、フードチェーン全体で製造や在庫管理の効率化につながる施策の方向性が定まり、消費期限の延長、食品廃棄ロスの低減、遠隔地への適切な配送などが実現する可能性が高まります。今後、より良い形でカット野菜の製造、流通、小売ができる環境の整備が進んでいくことが期待できます。