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農産物の物流品質の向上に貢献する「衝撃試験」 

千葉大学 大学院園芸学研究院 先端園芸工学講座 教授 椎名武夫

取り組み紹介2022-09-20

流通過程で農産物の品質変化(変質)が起こる要因の1つに「衝撃」があります。これまであいまいだった衝撃の影響を明らかにし、フードチェーン情報公表JASの重要な基準の1つとする準備が進んでいます。膨大な試験で得られたデータによる基準づくりの一端を千葉大学 椎名武夫教授に聞きました。

消費者が手に取る農産物の品質を大きく左右する流通プロセス

農産物の流通プロセスを保証するまったく新しいJAS規格として、フードチェーン情報公表JASの制定の準備が進められており、産地、流通、販売などが新たな基準に従った管理で産品を取り扱っていることを証明できるものとして、令和5年4月からの運用を目指しています。
フードチェーン情報公表JASの基準づくりでは、農産物を変質させる環境要因の影響を科学的なデータとして明らかにする取り組みが進められています。温度や湿度、微生物などと並ぶ重要な要因として流通過程で受ける「衝撃」があり、試験によるデータの取得を行っています。
対象となる農産物の種類・品種・系統ごとに試験が行われ、これまでにメロン、ブドウのブランド品で実施され、基準が設定されました。次にイチゴのブランド品での準備が進んでいます。

落下試験の実施

試験は緩衝包装を施し梱包された状態の農産物に加速度センサーを付け、一定の高さから落下させ、多目的データ収集解析装置による記録を行い、衝撃加速度を精密測定します。同時に、農産物の損傷程度の評価を実施します。
データの収集・解析には農研機構の食品研究部門流通実験棟​にある落下試験機、衝撃試験機を使用しています。出荷状態となった現物のブランド農産物を大量に準備し、実際に落下させる試験を繰り返し行うことで、膨大なデータを収集しています。

落下試験の様子

①落下試験機
イチゴの落下試験の様子。5箱をバンド掛けして落下させた
②多目的データ収集解析装置
メロンの落下試験の様子。精密計測用の多目的ロガーを活用

衝撃管理の設定例

※「許容される衝撃の上限」は、簡易ロガーでの加速度値

科学的なデータによって、物流品質の向上を促す

青果物は損傷レベルをどのように評価するべきなのかがとても難しいという性質があります。
農産物の種類や品種はもとより、収穫時期によって損傷の受け方が異なり、それに合わせた計測方法、損傷指標を定める必要があるからです。
例えばイチゴは12月~3月が出荷時期ですが、時期によって損傷のしやすさが異なるため、時期を特定した衝撃の基準設定が必要といえます。そのための試験は、年の一時期しか行えないという制限の中で実施する必要があります。
また、農産物の損傷レベルは種類や品種ごとに、脱粒・ゆるみ、損傷・軟化などで設定され、確認は目視によって、外観や切断面の変化によって判断されます。時間経過があっては意味がないため、判断は試験現場ですぐに行う必要があります。

これまで把握が難しかった物流段階の衝撃について、データに基づいた新たな指標が登場することで、食品流通に関わる業界や企業、生産者が強く意識するようになり、物流品質の向上が期待できます。