reports

流通時の温度履歴に基づく農産物の鮮度予測を実現

千葉大学 大学院園芸学研究院 先端園芸工学講座 教授 椎名武夫

取り組み紹介2022-12-27

「鮮度」の科学的な共通認識は日本のみならず、世界的にもあいまいな状況が長く続きました。しかし、最近になり日本で鮮度を科学的に明らかにしていこうという取り組みが進みつつあります。その1つが流通時の温度履歴に基づいたアプローチです。

温度履歴に基づく、鮮度の見える化

野菜や果物を買うときには新鮮さが重視されますが、実は「鮮度」について科学的な共通認識は世界的にもあいまいで、科学的で確固とした鮮度の定義は存在しませんでした。最近になり、鮮度を科学的に明らかにするための取り組みが国内で進んでいます。その1つが流通時の温度履歴に基づいたアプローチです。

過去の農産物の貯蔵試験データ、例えばキャベツを一定の温度で貯蔵した場合に何カ月間は品質を保持できるという貯蔵可能期間に基づき、貯蔵開始0日の鮮度を100と設定し、貯蔵可能期間の最終日を0と設定して指標とします。
アプローチは2つあり、1つが保存温度と日数の積算、もう1つが保存温度での呼吸速度(農産物が単位時間あたりに排出する二酸化炭素量)の積算です。流通時の温度と時間(日)の積算を用いて、貯蔵可能期間(許容積算温度または許容積算呼吸量)との比から、鮮度を予測します。

キャベツで実証した品質予測システム

鮮度予測の実証実験はキャベツの品質予測システムとして実施されました。計測は出荷時に梱包されたキャベツの容器(プラスチックコンテナ)のなかに同梱されたロガーで行いました。
使用したロガーは藤田電機製作所製の温度・湿度・衝撃の3種のデータを収集できるデータロガーで、NFC通信に対応しているので取得したデータはスマートフォン(Android)アプリを使用してロガーからスマートフォンへ転送します。このアプリは、スマートフォンからクラウドサーバーへデータを転送することができるため、センサーAPIによってデータをukabisに格納します。
この一連の動作をリアルタイムで実行でき、格納されたデータに対して、品質予測モデルを適用したプログラム処理を行うことによって、品質変化を予測するシステムの開発を目指しています。

 

例えば、記録開始を生産地で出荷する時刻、記録終了を加工工場に入荷する時刻とし、その間、出荷から入荷までの温度履歴データを用いて、温度の積算値を温度履歴評価モジュールによって計算し、鮮度値として提示するという仕組みです。さらに、予定貯蔵温度から貯蔵可能な残りの期間を割り出し、その結果を表示します。

この仕組みはもう1つのデータを合わせて精度をあげる構想です。
農研機構食品研究部門が進めている鮮度センサーを用いた鮮度評価もukabis上でデータを処理し、鮮度値を出します。
温度履歴、鮮度センサーを用いた評価の2つの鮮度値がukabis上に存在することになるので、これらを合わせて総合鮮度とし、貯蔵可能期間を明示できるようにすることを構想しています。

現時点では産地、輸送、加工工場までを温度履歴の範囲としていますが、将来的にはスーパーの店頭も含めることで、消費者が手に取る直前までのデータを収集して、鮮度表示に用いることが想定されています。

キャベツの他にも、タマネギ、ニラ、ダイコン、ニンジン、サトイモ、キュウリ、トマト(成熟)、ナス、ピーマン、レタス、ハクサイ、ネギ、ホウレンソウ、ブロッコリーの14品目について既に貯蔵可能期間(許容積算温度と許容積算呼吸量)がリスト化されており、今後はこのリストを拡張していくことで対応できる農産物の種類を増やしていく予定です。