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農産物の輸出に向けた「温度管理とMA包装」

近畿大学 生物理工学部 食品安全工学科 教授 泉秀実

取り組み紹介2023-01-25

フードチェーン情報公表JAS規格の申請が2022年10月に行われ、メロン、ブドウの基準に温度管理とMA包装の利用が明記されました。実証に携わった近畿大学泉教授に実験の科学的なアプローチと具体的な手法を聞きました。

温度管理とMA包装で品質保持期間を延ばせる

野菜や果物は低温で温度管理された状態での貯蔵・流通が望ましいことは古くから知られています。さらに青果物は生きているため、低温状態で酸素と二酸化炭素のバランスを調整すると生理代謝(呼吸・水分蒸散)を抑制でき、同様に熟度に影響するエチレン(追熟ホルモン)の生成も抑制されます。一部の果実は収穫してから自ら生成するエチレンによって追熟を進めていきますが、熟度の進行を遅らせることで組織が若いまま維持され、カビなどの微生物への耐性を維持する効果も得られます。

鮮度保持の方法としてCA貯蔵、MA包装があり、共に低温貯蔵を基本とし、付加的な効果をガス組成でもたらすという考え方です。
CA貯蔵(Controlled Atmosphere Storage)は、青果物を機密性の高い貯蔵庫に入れ、低酸素・高二酸化炭素のガスを連続して通気することで、庫内を貯蔵に最適なガス組成の気体で満たし、品質保持期間を延ばすもので、この効果をCA効果と言います。りんごはCA貯蔵されることで収穫から7カ月も新鮮な状態を維持できます。りんごや洋梨はすでに世界的にビジネス化されていますが、設備と運営に相応のコストがかかります。
MA包装(Modified Atmosphere Packaging)はプラスティックフィルムで青果物を密閉状態にすることでCA効果を得る方法です。密封された内部では青果物が呼吸をすることで低酸素・高二酸化炭素になります。フィルムはガスを一定量透過させる機能を持つため、フィルムの種類によって最適なCA効果を得られるガス条件を作り出すことができるように調整し、品質保持期間を延ばすものです。MA包装は青果物の種類を問わず利用できるので、JAS規格に適しています。

クラウンメロンでのMA包装の実験

静岡県のクラウンメロンでは、すでに確立している流通の現状に則して常温貯蔵の20℃~30℃でのMA包装を実験しました。
クラウンメロンには過去のデータが存在しなかったこと、また一般的にメロンはエチレンを出し追熟する果物ですが、品種によってエチレンの排出量に大きな差があるため、クラウンメロンに最適なガス組成を割り出すCA貯蔵(連続通気)実験から始めました。最適なガス組成の確認ができた後、MA包装の実験に進み、MA包装の実験では官能的品質(臭い、味、萎れ)をそれぞれスコア化して評価し、品質を維持できる条件を検証しました。

新たに申請予定のいちごは、国内流通で灰色カビが問題になることがわかっており、これまで手がけてきた実験データから、二酸化炭素20%のガス組成で抑えられることが判明しています。
それを前提に15℃での流通を想定したMA包装による品質維持の条件の検証を進めてきましたが、MA包装内部で発生する結露によって灰色カビが発生することがわかり、その対策を考慮したフィルムに変更することで基準を策定しています。

科学的に確かなデータで輸出を支える

基準をつくるためには目的を達成するために必要な科学的なエビデンスを見つけ、それを指標として活用できる考え方を整理し、検証することが必要です。検証には多大な時間と手間をかけた実験が必要で、それによって理想的な条件を見出すことができます。
ただし、農産物には生産や流通・販売の現場があり、その条件は農産物の種類や品種によって多岐にわたります。さらに輸出に向けては国や地域ごとに異なる基準や現場に即した条件で確認し、効果を証明して初めて意味のある基準になります。
今後登場して多くの人の目に触れていくフードチェーン情報公表JAS規格の基準がこうした作業の積み重ねによって検証され制定されていることを知ると、その科学的な確かさが実感できると思います。